日本臨床スポーツ医学会

令和8年熊本地震で被災された方々へ

第5号記事 2026.08.03
上肢・下肢に障害がある方へ

田島 文博(ちゅうざん病院理事長、日本パラスポーツ学会理事長)

 このたびの被災に際し、心よりお見舞い申し上げます。
被災地や避難所で生活される上肢や下肢に障害のある方には、健康と安全を守るため、特に次の点に注意していただきたいと思います。

1.昼間は横にならず、できるだけ体を動かして下さい

まず強調したいのは、長時間じっとしていてはいけないということです。過酷な状況ではありますが、体力低下や血栓を防ぐため、できるだけ体を起こし、動くよう努力して下さい。

  • 昼間は横にならず、できるだけ座位や車いすで過ごして下さい。
  • 自分で動かせる部分は、毎日何回でも積極的に動かして下さい。
  • 障害のある下肢も、手を使って毎日繰り返し動かして下さい。
  • 眠る時は、可能な限り下肢を高くして下さい。

長時間動かないでいると、健常者でも下肢の静脈に血の塊(血栓)ができることがあります。血栓が剝がれて肺の血管に詰まると、命に関わる肺塞栓症を起こします。場合によっては、脳梗塞や腸管梗塞の原因となることもあります。

2.麻痺した手足の拘縮を予防して下さい

麻痺した手足を動かさずにいると、関節や筋肉が硬くなり、動かしにくくなる「拘縮」が起こります。拘縮が進むと、着替え、清拭、排泄、車いすへの移乗などが難しくなります。拘縮を防ぐため、毎日、関節を動かすよう努力して下さい。

  • 麻痺した手足も、毎日数回、ゆっくりと十分に動かして下さい。
  • 膝、股関節、足首などを、できるだけ丁寧に曲げ伸ばしして下さい。
  • 同じ姿勢を長時間続けず、積極的に姿勢を変えて下さい。
  • 麻痺した手足が不自然な位置のままにならないよう、姿勢を整えて下さい。
  • 自分で動かせない場合は、周囲の方に手伝ってもらい、毎日続けて下さい。

ただし、強く引っ張ったり、反動をつけて無理に動かしたりすると、骨折や関節損傷につながることがあります。赤くなったり、腫れたり、強い痛みや明らかな異常がある場合は中止し、医療スタッフに相談して下さい。

3.褥瘡(床ずれ)を予防して下さい

下肢に麻痺がある方は、褥瘡ができやすいため注意が必要です。慣れた自宅では問題なく生活できていても、避難所の不慣れなベッドや椅子、車いすでは、驚くほど短時間で褥瘡ができることがあります。早い場合には、3時間程度で生じることもあります。

  • 少なくとも3時間おきに、必ず姿勢を変えて下さい。
  • 1日1回は、足、お尻、腰などを自分で確認して下さい。回りの人でも良いです。
  • 自分で確認できない場合は、周囲の方に頼んで確認してもらって下さい。
  • 皮膚全体を触り、腫れ、熱っぽさ、硬さがないか確認して下さい。

褥瘡は、皮膚の表面ではなく、皮下から始まることがあります。赤み、腫れ、熱感、硬さ、傷などの異常に気づいたら、ためらわず救援医療スタッフに相談して下さい。

4.冬季になったら凍傷に注意して下さい

現在は気温が高いため、凍傷の危険性は高くありません。しかし、避難生活が冬季まで続く場合や、今後気温が大きく低下した際には、凍傷への注意が必要です。
障害のある下肢が布団の外に出たままになったり、車いすの冷たい金属部分に長時間触れていたりすると、凍傷を起こすことがあります。感覚が低下している場合は、寒さや痛みに気づきにくいため、特に注意が必要です。冬季になったら、靴下、衣類、毛布などを用いて、普段以上に障害のある下肢を保護して下さい。

5.冬季の熱傷(やけど)にも注意して下さい

冬季には、下肢を温めようとしてやけどをする危険があります。感覚が低下している場合は、熱さに気づかないまま重症化することがあります。

  • たき火やストーブに足を近づけすぎないで下さい。
  • 湯たんぽや電気毛布を直接皮膚に当てないで下さい。
  • 使い捨てカイロを同じ場所に長時間貼らないで下さい。
  • お湯を使う場合は、必ず手や温度計で温度を確認して下さい。

特に、カイロの貼りっぱなしによる低温やけどに注意して下さい。

6.意識して運動量を確保して下さい

被災地や避難所という過酷な状況でも、ぜひ運動に努めて下さい。歩ける方は、さまざまな作業を通じて自然に体を動かせます。しかし、下肢に障害のある方は、避難生活によって運動量が大きく低下しがちです。十分な食料と水分が確保され、体調に大きな問題がなければ、意識して健常な部分を積極的に動かして下さい。ただし、熱中症にならないように涼しい環境で水分を充分取りながら行って下さい。

  • 車いすの駆動
  • プッシュアップ
  • 腕立て伏せ
  • 懸垂
  • 上肢や体幹を使った運動

できる運動を選び、できるだけ回数と運動量を確保するよう努力して下さい。ただし、胸痛、強い息切れ、めまいなどが生じた場合は、医療スタッフに相談して下さい。

7.できる作業に積極的に参加して下さい

下肢の障害のある方は上肢を使って、上肢に障害がある方は下肢で、できる作業があれば、積極的に参加して下さい。周囲の方も、下肢に障害のある方が参加できる役割や作業を工夫して下さい。活動することは、体力低下、血栓、拘縮、褥瘡を防ぐだけでなく、避難生活における心身の健康を保つことにもつながります。
被災後の大変な状況ではありますが、とにかく体を動かし、活動と運動を続けるよう努力して下さい。

8.切断の方へ

上肢や下肢の切断のある方は、暑い環境では熱が体から逃げにくいので、熱中症に期をつけてください。ダラダラ汗が流れるようなら、健常者以上の水分と塩の補給が必要です。回りの人もご理解下さい。

皆様のご健勝と、一日も早い復旧・復興を心よりお祈り申し上げます。

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