日本臨床スポーツ医学会

令和6年能登半島地震で被災された方々へ

第3号記事 2024.01.11 避難先での呼吸器感染症予防について

 スポーツイベント中に発生する内科的疾患の筆頭に呼吸器症状が挙げられ、その多くが感染症です。特に緊張を強いられる試合や強化合宿中など、強いストレスがかかった後に風邪にかかるパターンがスポーツ診療でよく認められます。また、口腔の局所免疫指標とされる唾液分泌型免疫グロブリンAは、高強度運動や高地トレーニングなどの特殊環境下で変動が認められたとするスポーツ医学研究があり、高地経験の有無によりその反応が異なる可能性も報告されています。

 突発した大災害となれば屋外スポーツ以上の過酷な環境下にあることから、見えない強いストレスがかかっており、普段健康なひとであっても呼吸器感染症への十分な注意が必要です。避難生活では、倒壊による粉塵吸入や、水資源不足による衛生環境の悪化が加わり、さらにリスクが高まると言えます。

 一方、運動免疫学の分野では、適度な運動を継続することが免疫機能を維持し、感染罹患率を低くするとも言われています。運動を継続できる環境には程遠いかもしれませんが、1日のなかに可能な範囲で運動の時間を確保することが、良好な免疫機能を保つコツであり、2011年の東日本大震災直後に被災地の復興支援で訪問した際、何より忖度のない笑顔を作り出すスポーツの力を実感いたしました。

 反面、多くのスポーツメガイベントや東京2020大会でも話題になったように、インフルエンザや新型コロナ等の感染症は、震災後の避難生活でも集団感染の場となることから、避難先の生活でも十分な感染対策が行われる必要があります。

 オリンピックをはじめ、日本を代表する選手団では、ほぼ全員が呼吸器感染症対策としてのワクチンを事前に接種し、宿舎や食事会場での手洗いや手指消毒、適切なマスクの使用等を励行して集団感染の予防に努め、メンバー全員の健康とベストパフォーマンスに繋げています。呼吸器感染症対策を万全にして、復興に向けたチームのパワーを高めていきましょう。

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